刑事ドラマで見る「犯人が自供するシーン」って、現実にあるのですか?
体験談を聞いてみたいです!
確かに刑事ドラマには、否認していた犯人が、自分のやった犯罪を反省して涙を流し、うなだれて自供するというシーンがありますね。
雰囲気はちょっと違いますが、否認から自供に転じることは、本当にあります。
でも、反省して自供するというより、逃れられないとあきらめて自供することがほとんどです。
犯人が自供するのは、取調室の空気が変わったからです。
そんなことで自供するの?と思うかも知れません。
取調室の空気が、どのように変わっていったのか。この記事では、実際にあった体験談を元に、犯人が自供する瞬間について綴ります。
この記事では、新米刑事が、犯人Bに対する取り調べを担当し、その自供する瞬間を綴ります。
新米刑事が、実際に体験したことですので、記事を楽しんでいただけたらと思います。
取り調べ前夜の刑事
事件に着手する前の捜査
被害の届け出
ある夜、いつもどおり車を月極駐車場に停めていた被害者は、朝出勤しようと車に行くと、非日常の光景が目に入りました。
車のガラスが割れている。。。
そうです。約20年前によく流行った車上狙いです。
車の中から、ハイウエイカード1枚(5000円分)が、盗難被害に遭っていました。
ハイウエイカードとは、今で言う高速道度料金を支払うプリベイトカードです。
ETCがなかった時代のお話です。
刑事課に連絡が入り、現場臨場。
鑑識活動など所要の作業をして、被害届を受理し、車上狙い事件の捜査を開始しました。
犯人の割り出しと証拠収集
犯人は、A男とB男の2人組であることが分かるまで、さほど時間はかかりませんでした。
いずれも、隣接県に住む20歳代の無職の男でした。
ただ、逮捕状を請求するまでの証拠は、掴めませんでした。
A男については、あとひとつ何か証拠があれば、逮捕状を請求できましたが、
B男については、全くと言って良いほど、物的証拠がありません。
- 自宅のガサ(捜索)で何か証拠を発見する
- 取り調べによる自供と裏付け
がなければ、逮捕状がとれない状況でした。
捜査の方針
事件着手の方針
これ以上捜査を継続しても、物的証拠を掴むのが困難だと判断されました。
そこで、捜査の着手方針が決まりました。
任務付与
- A男の取り調べを先輩デカ長(古手の巡査部長)
- B男の取り調べを新米刑事
と決まりました。
A男の取り調べは、逮捕状の一歩手前までの証拠があったので、比較的、調べやすい状況です。
あと一歩のところを突くと自供を得やすいですし、何か矛盾があれば、それを以って逮捕状の請求も可能な状況です。
B男については、何の証拠も無く、自供が無ければ無罪放免。
一度自宅に帰すと行方を暗ますことは目に見えていました。
新米刑事の心境
この様な状況で、B男の取り調べを担当する新米刑事。
その心境はいかに。。。
- 悪い心
なんで僕がこっちなの?先輩が難しい方やってよ - 良い心
難しい方をさせてもらえるんだ。絶対に自供させてやる
刑事としては、両方の心が入り混じった心境です。
この時の新米刑事は、『良い心』が勝っていました。
こんなプレッシャーに耐えながら、取調室で対峙したときの準備を徹底的にやりました。
『どう話すと、どんな言い訳をするから、どう攻める』など、シミュレーションをやるんです。
取り調べに臨む刑事の準備
否認が予想される取り調べほど、気が重いものはありません。
これは新米もベテランも同じです。
新米刑事も、今回、考えられるだけのあらゆる準備をして、事件着手の日を迎えました。
取調室での対決 刑事VS犯人
事件の着手
ガサ
寒い冬の朝、午前6時に事件着手。
まだ薄暗い時間でした。
2人とも自宅に対するガザでは、新たな証拠を発見できませんでした。
これは想定内です。
ガサ中の言動から、2人とも『事件のことは全く知らない』と完全否認。
これも想定内。
こうして、2人とも任意で警察署に同行。
取り調べを開始することになりました。
取り調べ室にて
取り調べの開始
新米刑事は、B男と取調室で対峙していました。
きのうまで考えていた言葉を並べ、自供させようと必死です。
でも、敵もさることながら簡単に自供しません。
新米刑事は、気持ちで負けることはなく、考えられるだけの作戦を、次々に実行し、攻めていました。
共犯者の自供
A男が、早々に自供。
ある程度の物的証拠があったA男は、少し抵抗しただけで自供に追い込むことができました。
ベテランのデカ長は、涼しい顔をしていました。
孤独な闘い
午後0時
新米刑事は、考えていた作戦の全てを出し切り、B男と対峙していましたが、まだB男は自供しませんでした。
新米刑事は、うどんを食べ終えると、刑事課長に尋ねました。
もしB男が自供しなければ、B男だけ帰すということですか?
刑事課長は軽く「そうだね」とだけ答えました。
新米刑事は、聞かなくてもわかっている質問をしてしまいました。
他の先輩刑事たちは、何も言いませんでした。
本当の闘いの始まり
自供すると、どうなるのか?
B男が自供をするとどうなるのか。
B男は、同種の窃盗事件で刑務所に行ったことのある男でした。
ということは、今回の事件で自供すると、その後、逮捕され、起訴され、刑務所行きは確定的でした。
- 自供すれば、懲役・刑務所行き。
- 自供しなければ、助かる可能性がある。
天国か、地獄か。
そう簡単に、自供するはずはありません。
刑事が自分の全てをぶつける勝負
新米刑事は、作戦の全てを出し切り、どう攻めようか悩みながら勝負を続けていました。
自分が考えられる全てをぶつけて、何とか落そうと必死でした。
しかし男は想像以上に手ごわい相手でした。
新米刑事の誘い水には乗ってきませんでした。
任意による取り調べですので、いくら承諾しているとは言え、タイムリミットは近づいていて、時間との勝負でした。
新米刑事は、ギブアップするかどうか、悩んでいました。
取調室から出たら負け
取り調べの鉄則として言われている言葉の中に
- 取調室から出たら負け
というのがあります。
新米刑事も、取り調べの鉄則は知っていましたので、午後4時ごろになっても、取調室に入ったまま、男と対峙していました。
ついにギブアップ
取調室を出る
冬の夕暮れ、取調室の窓の外は、一日の終わりを告げるかのように、日差しが傾いていました。
新米刑事は「もはやこれまで」と観念し、取調室を出たんです。
刑事課長も、係長も、ベテランのデカ長も・・・
新米刑事が取調室から出てきたことに気付いていました。
でも、何も声を掛けません。
新米刑事は、すぐに刑事課長のところには行かず、自分でコーヒーを入れ、自分のデスクでコーヒーを一口すすりました。
刑事課長のひと言
刑事課長は主に強行犯刑事をしてきた、強面の課長ですが、普段はニコニコ優しい顔をした男でした。
刑事課長が、煮詰まっている新米刑事を察して、近づいてきました。
「おぉ~どんな感じ~?」
とニコニコしながら声を掛ける。
新米刑事は、「しぶといヤツです。。。」と答える。
まだ心のどこかで「ギブアップ」とは言いたくなかったんです。
その時、刑事課長は、またニコニコしながら、
「大丈夫や。お前より、アイツの方がしんどいんや。」
とだけ言って、さっさと自分の席に戻って行ったんです。
えっ。。。?
何っ。。。?
犯人が自供する瞬間
「アイツの方がしんどい」とは
「お前より、アイツの方がしんどい」?
そう言ったよなぁ。。。
当たり前のことでした。
B男は、前科もある男でしたので、今回の件で逮捕・起訴されれば、刑務所行きは確定的。
懲役か、無罪放免か。
天国か、地獄か。
取り調べを受ける事は「しんどい」はずです。
一方、取調官の方はと言うと、自供させられなかったとしても、クビになる訳でもなく、給料が減る訳でもない。
「アイツの方がしんどい」
当たり前のことでした。
意識・気持ちの変化
「そうか。アイツの方がしんどい。」
なぜ、俺の方が、追い込まれてるんだ?
新米刑事の気持ちの中で、何かが変わりました。
俺よりもアイツの方がしんどい。。。。。
気持ち・意識の中で、変化が起きていました。
よし。あと少しだけ、攻めてみよう。
ダメならそれで良い。
なるようになれ。ダメ元だ。
コーヒーを飲み干し、取調室に向かう時、
どう攻めるかは考えていませんでした。
無心でした。
自供の瞬間
取調官のイスに座って、特に違う言葉で攻めたというものはありませんでした。
でも、10分ほど経って、B男の様子が、目に見えて変わりました。
はぁぁ~っっ。
男が大きくため息を吐きました。
一呼吸おいて、
小さな声で、
「すみません。俺がやりました。」
そう言ったんです。
取調室の空気
取り調べの言葉・内容は、それまでと何も変わりませんでした。
変わったのは、たったひとつ。
取調官の意識・気持ちだけでした。
意識・気持ちが変わり、取調室の空気が変わったんです。
犯人は、その微妙な空気の変化を感じ取ったんです。。。
取調室の窓から差し込む光が、一日の終わりを告げていました。
そして、新米刑事が刑事になった瞬間でした。
警察官・刑事のやりがい
自供した理由
後日、B男に「なぜ自供したのか」を聞くと、
「何かわからないけど、無理と思ったから」と答えました。
犯人が無理だと思った理由は、計算ではなく、「勘」です。
そんなものか。。。
お気づきかも知れませんが、この話は、もーやんが駆け出しの刑事だったころの実体験です。
初めて否認する被疑者を取り調べた時のことは、刑事であれば生涯、忘れることはありません。
悪いヤツを捕まえ、刑務所に送り込み、
そして、被害者に連絡して、安心してもらう。。。
これが刑事のやりがいの最たるものです。
取り調べは、その一つの手段です。
警察官を目指す方、刑事を目指す方、ぜひ一度、体験してほしいと思います。
刑事の魅力・やりがいは他にもたくさんあります。
刑事課長のひと言
刑事課長にも後日、なぜあんなアドバイスをしたのかを聞くと、これも「勘だ」と言いました。
若い刑事が思いつめて取り調べをし、諦める寸前だと言うこともわかっていて、最後にダメでも良いから、正面からぶつからせようと思ったらしいのです。
そうなんです。
刑事課長は、取調室に入らずに、B男を自供させたんです。
スゴイ。。。
刑事課長という仕事は、自分で取り調べをする訳ではありません。
自分で捜査して、犯人を割り出す訳でもありません。
しかし、ちょっとしたアドバイス、捜査指揮で、事件の行方は大きく変わります。
これこそ刑事課長・捜査幹部の魅力・やりがいです。
警察学校の必需品や選び方については、以下の記事で解説しました。
>> 【警察学校の持ち物】揃えるモノの選び方ポイント
警察グッズ・おみやげについて、こちらの記事で解説しています。
>>警察グッズの贈り物 おすすめ10選 警察学校のおみやげ
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